素踊りを見る。

 天川の池に 遊ぶ鴛鴦の
 思い羽の契り 他所や知らぬ

 横浜能楽堂「この人、百話一芸」という講座のVol.14に組踊の立方(演者)の人間国宝の宮城能鳳氏登場ということで友人達と行ってきた。6月に横浜能楽堂に琉舞と組踊を観に行った折に、そんなチラシが入っていた。随分先なのだけど、これは是非にもお話しを聞きたいとチケットを取っていた。

 能楽堂の客席はそんなには広くないので、正面2列目で真ん中に近くて舞台も近くて、なんていう講座にはとてもいい贅沢な席だった。

 OPENINGにかぎやで風を一差し舞う。この時は着物と袴で。踊りは翁の型なのかな、多分。(まだ、そんなに詳しくは無いので)
 普段の横浜能楽堂の講座では、こういう始まり方はしないそうだ。まず説明があってから「見てみましょう。どうぞ〜」となるらしいが、能楽・邦楽方面がメインの講座なので琉舞を初めて観る参加者も多いだろうということで、趣向を変えて驚かせようとまず踊りで始めたということ。確かに、初めて琉舞を観たという人も半分くらいいた感じで。ということで、様々なことが琉球古典芸能の初心者にもわかりやすく説明されていた。素晴らしい。

 だいたい、こうやって喋る宮城能鳳氏を観るの自体が初めてだ。声も女性役の時の唱えの声しかまだ聴いたことがないし。持ってる組踊のCDも全部女性役のだもんな。かぎやで風を舞って、下手の廊下の先の袖に戻ってその後は袴を脱いで上手から着物姿で登場。立ち姿、座る姿などの所作がとても美しい。講座は、解説者の人とトーク形式なのだが、その時の説明の時に動かす何気ない手の動きとかもとにかくまぁ美しい。そんな部分にも注目してみたり。

 第一部は、スライドを使って能鳳氏の歴史を交えて、琉舞とか組踊りの説明。なかなか見ることのできない貴重な写真がいっぱい!!韓国の焼肉屋でかちゃーしーとか。音大を目指していた高校生の頃とか。愛犬モモちゃんとのお散歩画像とか。

  • 扇の使い方

琉球舞踊は武道の流れを汲んでもいるので、扇の使い方にアクセントがある。日舞や歌舞伎には無い扇の使い方。

  • こねり手

「その手を下ろすときは愛しい人の背中をなでるようにすっと」と、言うのを聞いてすかさずねーねーが「あぁん、その説明いい〜!!」と。めっちゃ聞こえるし(笑)ってか、そうだったのかぁ。

  • なより

本にあった「ガマクを入れて」というのを実際に説明付き見ることができました。百聞は一見にしかず。

と、初心者の私にはどれもこれも大変興味深いエッセンスが散りばめられた素晴らしい講座でありました。

 二部の最初に組踊の唱えを披露。「花売りの縁」の乙樽と翁の一人二役で。つまり女性の乙樽が、樵のおじぃと会話するシーンを一人でやってくれたのだね。組踊の女形ってそういえば男役もやるのを観るけれど、男役がメインの人が女役をやるのはまだあまり知らない。これからの楽しい研究ポインツやな。
 そうそう、12月24日の国立劇場おきなわの「花売りの縁」では、能鳳さんは樵のオジィ役をやるそうで。6月の横浜能楽堂は乙樽だったよね。

 その後披露された演目は「天川」と「花風」。衣装もメイクも無しの素踊りで披露された。この素踊りは、琉舞ではやることが無いので能鳳さんもこうやって披露するのは初めての試みだとか。物凄く貴重なものを拝見できたのですね。ありがとうございます。
 小物は持ちますが、とにかく着物一枚だけなので余計なものが無く、表情とか動きとかもの凄くよく分かる。打掛だと見えにくい足の運びや、体の動きとかもよく見えて。音楽とどう合わせているとか。三線の音と足の運びのタイミングとか目と耳でめっちゃ感じてみた。おおおぉぉ〜。観ていて非常に気持ち良し。

 あぁ〜、なんて素晴らしい。美しい〜でございました。
 踊りが音楽と一体になっているの。音楽が止まらずに流れるように、踊りも止まる事は無い。それは当たり前のことなんだけど、ね。背中を向けた時のその立ち方の美しさ。そして、その表現。距離が近いのとメイクしていないのもあって顔とか目線とかが凄くよく分かって。一部の隙も無い動きとその集中。観ながら息をするのを忘れちゃいそうだった。
 天川は、後半手の動きが結構あるのだけど、その動きと唄との呼応した感じとか。なんだろう、観るってより感じる?

 踊るときには、やはり音楽の中の特に唄を聴いているそう。だから、ちゃんと言葉もはっきりと唄って欲しいと。そして、その唄の表現によって踊りがやっぱり変わってくるとか。
 私もいつの日にか、踊る人とそんな呼応ができるように唄えるなればいいなぁ。一つのグルーブの輪の中にすっぽりハマった時の心地よさはもう知ってるから、その心地よさがこの世界でも見いだせれば本望よね。

今回は音源だったので、唄持ちの回数が限られるのもあってか横の道は使わずに。たった一回の唄持ちで、ふっと踊る気持ちに入るのよね。それも全部見せてくれて凄いなぁ〜。

 終わってから電車の中では、興奮冷めやらぬままあーだこーだーのお喋り雀状態。とてもいい話を聞き、見せて貰いました。ありがとうございます。感謝、感謝。舞台だけでなくこういったものも発見したら積極的に見て、感じていきたい。少しずつ、少しずつだけどこうやって知り、考えることはとても面白く楽しい。